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2017年7月31日
青山社中メールマガジンvol.80 逆命利君
もう20年近くも前のことになるが、経産省に入って間もない頃、ある先輩から「逆命利君」という言葉を聞いた。
前漢の学者であり政治家であった劉向(りゅうきょう)の言葉とされるが、「たとえ主君の命令に逆らってでも、正しいと思うことをせよ。それが結果として、主君の利益・為になる。」という趣旨である。ずいぶん前のことでもあり、その言葉が発せられた細かな状況は覚えていないが、「官僚が持つ矜持を強烈に表現した熟語だな」といたく感心したことだけは、はっきりと覚えている。
確かに当時は、特に当時の大蔵省や通商産業省の役人に多かった印象があるが、「衆愚的民主主義など何するものぞ」と、時に多分の勘違いも含め、「政治家の命に逆らってでも、正しい政策を自己の信念にしたがって立案・遂行し、もって当該政治家を含む国民・国家のために尽くそう」という信念に燃える役人が少なくなかった。
例外はあるが、最近は、このような「肉食系官僚」が減り、政策の「立案」ではなく「執行」が役人の本義とばかりに、選挙で選ばれた正当性を持つ政治家の命に唯々諾々と従う官僚が増えている感じがする。「民主主義」という大義の下では、それが正しいとも思うし、民主主義の本質は議論・プロセスではなかったかと、何となく寂しいとも思うし、複雑な心境だ。
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上記のような「肉食系官僚」とは少し違う気もするが、最近の安倍政権の支持率低下に一役買っているのが、官僚の反乱とも言われている。
真相は分からないが、例えば稲田防衛大臣の辞任については、制服組になるのだろうか、防衛官僚の止まらないリークが決定的な打撃になったとも言われている。私怨であれば、言語道断だが、もしかすると、個人的な正義感から、「命に逆らって」次々に情報リークすることこそが、国益に適うと思ってやっているのかも知れない。少し前になるが、尖閣諸島での中国漁船の体当たり動画を、上司の命はおろか、国公法上の守秘義務違反をしてまで流出させた海上保安庁の職員などは、義憤にかられて「逆命利君」を図ったのかも知れない。
防衛省の「リーク役人」は、まだ現役なので上記のような「好意的な仮説」があり得るが、「逆命利君」とは全く相容れない、官僚/元官僚として極めて情けない動きをしているのが、文科省前次官の前川氏である。前川氏は、現役の時点では、不承不承か、加計学園の獣医学部新設について「岩盤規制に穴を開ける」との内閣府・官邸の意向に従い、「逆命」はしなかった。それが、天下り問題で詰め腹を切らされた後、つまり、組織を離れた後、「お前なんぞ主君ではない」とばかりに、ほぼ私怨にしか見えない形で政権に噛みついた。かつて、「霞が関の仕組みを変えるべし」と現役官僚として仲間と建設的提案を内部から行った私から見ると特に、辞めてから手のひらをかえして「実は」と、建設的提案もなく、暴露的に急に騒ぎ出す輩が一番信用できない。
ちなみに、「逆命利君」が記されている『説苑』には、「忠」としての「逆命利君」とともに、「乱」としての「逆命病君」(命に逆らいて君を病ましめる)についての記載がある。国益に大きく関わる日欧EPAの得失や北朝鮮のミサイル問題への対応を国民的にしっかり議論・審議させるために噛みつくなら分かる。前川氏は、私怨でこんなくだらない騒ぎを起こし、そうした本質的に大切なテーマを吹き飛ばすことが本当に公のためになると思っているのだろうか。仮に日本がどうしようもなく没落する日が来るとしたら、後世の日本人は、「こんな大事な時に、こんなくだらないことを国民的に・国会で議論していたのか。もっと議論することがあるだろう。」と呆れることは必定である。典型的な「逆命病君」だ。
そして、あまり世間では話題にならないが、私が何より問題だと思うのは、前川氏(及び文科省?)に「意見」「意志」が感じられないことである。先日の閉会中審査での前川氏の発言はほぼ聞いたが、一体、次官当時はもちろん現在も、獣医学部を新設したいのか、したくないのか、そこに意見らしきものが全く感じられない。ただ、外形的に、手続きが不十分ということを繰り返すのみである。ある意味「逆命」ですらない。
多くの国民や民間企業の方々が日頃役所・役人に対して抱く不満の本質は「顔が見えない」ということだ。申請等に対して、論点を提示して「反対」したり「賛成」したりするのではなく、ただ「議論を尽くして」とか、「手続きが」などと、個性を滅却して機械のようなことを言う役人は少なくない。今日日、小学校あたりでも「自分の頭で考え、自分の意見をしっかりと持とう」と指導されていると聞くが、教育行政の事実上のトップだった人がこの有様で、本当に良いのだろうか。
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私は加計問題の本質は、規制緩和の是非を巡る争いだと思っており、獣医学部の新設を支持する立場であるが、誤解無きように書いておくと、こうした規制緩和によってのみ、日本の繁栄・成長が担保されるとは考えていない。
むしろ、皮肉なことに、外貨持ち出し規制その他、今よりよほど大変だった戦後の時期の方が日本はたくましく成長していった。先日、主宰するリーダー塾で、ソニーの創業者である盛田昭夫氏について議論をして改めて感じたが、規制や役所の干渉等の制約を乗り越えたところに、スティーブ・ジョブズが「アップルはコンピューター界のソニーになる」とまで心酔したドラマがあったとも言える。必要なのは、規制緩和より気迫の強化である。お前は何者で何をしたいのか。よって立つ基盤なしには、反論可能性もなく、本質的には何の議論も進化・深化も起こらない。
つまり、もちろん不要な規制はないに越したことはないが、仮にそんなものがあっても、「鉄鎖の中にこそ真の自由がある」とばかりに、人生を、ドラマを作りあげていく始動者(=リーダー)こそが、今、求められている。盛田昭夫は、政府や裁判所や業界の常識という「命」を次々に塗り替え、打ち破って「利君」を果たした。
国会中継を見て、ニュースを見て、リーダー不足を日々嘆いても仕方がない。
自ら、始動者として何をすべきか。そんなことを改めて考えている。
代表・CEO
朝比奈 一郎
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<1>2017年度青山社中・リーダーシップ公共政策学校10月開講。
無料体験授業 兼 説明会参加者募集中!
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トランプ大統領誕生、AIの進化に代表される技術革新、少子高齢化の進展など、私たちは時代の大転換期の中に生きています。3年後の東京オリンピック・パラリンピックが終わった後、私たちはどんな状況に直面しているのでしょうか。
このような大変化の時代にあって、政治、行政などのパブリックセクターを中から変えていく人材、また、民間の立場から現行の政策や制度を深く理解した上で変革へのアクションを起こしていける人材が圧倒的に足りません。
青山社中リーダーシップ・公共政策学校は、上記の問題意識から、ビジネスパーソンを含む多くの方々に、パブリックマインドを持ったリーダーとして活躍していただくためのプログラムを提供しています。
今年度からは新たに「政策実務編①(議員向け/または志望者)」「政策実務編②(公務員向け/または志望者)」を開講。公務員が成果を出すためのマインド・スキルの醸成や、政治家として社会にインパクトを与えていくための政策づくりの手法について伝授いたします。
10月の開講に先立ち、プログラムのご説明や、体験授業の場をご用意しましたので是非ご参加ください(参加無料)。
「青山社中リーダーシップ・公共政策学校」無料体験授業
(第1回 http://ptix.co/2ugGIxr)
日時:8月26日(土)14:00 – 15:30(13:30受付開始)
会場:青山社中オフィス(東京都港区南青山2-19-3サザンキャッスルビル2F)
人数:先着30名
参加料:無料
登壇者:久保田崇(本校副校長、立命館大学公共政策大学院教授、元陸前高田副市長)
主催:青山社中株式会社
第2回 9月6日 http://ptix.co/2eSILBY
第3回 9月23日 http://ptix.co/2h8Cqmo
青山社中リーダシップ・公共政策学校サイト
https://aoyamashachu.com/project/leader_extension/index.html
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<2> 朝比奈が奈良県生駒市の魅力創造アドバイザーに就任
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奈良県生駒市の小紫市長より任命を受け、7月に「いこまの魅力創造アドバイザー」に朝比奈が就任しました。
https://aoyamashachu.com/news/2017/4540.html
生駒市は大阪のベッドタウンで、大阪都市圏中心部への通勤率は県内で最も高い自治体です。高山茶筌などの産品や、宝山寺、生駒山上遊園地などの観光スポット、また関西文化学術研究都市区域の研究施設など、様々な魅力のある地域です。
商工観光政策立案や職員の研修などを行い、生駒市の魅力創造や経済活性を支援していきたいと思います。
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<3> 青山社中リーダー塾通信
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*青山社中リーダー塾合同クラスを開催
7月22日(土)に、内閣府副大臣の越智先生に講義いただきました。
理論と実践のバランスの大切さ、自分の実現したい価値を追求することがリーダーへの近道であることなど、非常に学びの多い講義で、塾生も大いに刺激を受けた様子でした。越智先生ありがとうございました!
https://www.facebook.com/Aoyamachachu.ldr/photos/pcb.1393349297423737/1393349230757077/?type=3&theater
*青山社中リーダー塾通信 5期生 芦川 裕子
リーダーシップはLead the selfから始まると朝比奈塾頭は述べている。Lead the selfとは、1人でも正しいと信じることを実行に移すこと。リーダー塾の座学編を終えて実践編に移っている現在、私はLead the selfは、抽象と具体を行ったりきたりすることを通じて、私憤から出発した仮説を検証していく取組みではないかと考えている。
座学編を通じて、私は物事の抽象度を上げて考えることを学んだ。毎週塾頭から出される質問に自分なりの回答を出すには、これまで断片的な知識しかなかったところに歴史的な見方や様々な立場からの見方を取り入れ、ある程度の範囲は見渡せる視座を獲得しなければならない。それは今まで自分が持っていた視座よりも一段、あるいは数段上の視座だったが、毎回の講義でこの練習をすることができたのは大きな学びだった。
しかし抽象度を上げるだけでLead the selfがすぐにでもできるという感覚はなかった。「何について」まず自分自身をリードしたいのか?私憤から出発するのだということを座学編では学んだが、座学編終了時点では自分にとって一番大きな私憤とは何かが不明瞭な状態だった。
そのような折に、私はひょんなきっかけで学び始めたコーチングの講座を通じて、「自分を知ること」の重要性をいたく学んだ。自分は何が強みなのか、何を恐れていてどんな囚われがあるのか…自分自身の経験に即してそれらを丁寧に見ていくことで、私は自分の特性を前よりも把握できるようになった。実際これは仕事の場でも役立っている。例えば、手がけている新規事業の検証を丁寧にやり過ぎで、本番実行するまでに時間がかかってしまっていたことについて批判を受けたことがあるが、自分は必要な検証をやっていたと思っており、なぜ批判を受けるのか理解していなかった。しかし、意思決定には大して影響を与えないようなデータも集めすぎる傾向が自分にはあると理解してからは、なぜ批判を受けたのかがわかり、自分が仕事を進める上で注意するべき点も把握できるようになった。
このように自分について知っていくことは、リーダー塾の抽象度を上げる学びとは反対の、自分に即した極めて具体的な学びであった。しかしこの具体的な学びを通じて、自分の私憤を把握できるようになってきた。この私憤を公憤に変える際に必要となるのが、座学編で学んだ抽象度を上げて考えることだと思う。具体と抽象を行ったりきたりしながら、私憤を公憤に変え、自分なりに仮説を立てて検証していきたい。それが私の今のアクション方針である。
*NPO法人「地域から国を変える会」(リーダー塾生が立ち上げた団体です)
【兵庫県多可町】
兵庫県多可町と昨年度に引き続き、地域活性化事業に取り組むこととなりました。本年は「ビッグデータを活用した産業活性化策作成」、「昨年開発したラベンダー商品の販路開拓」、「起業家養成セミナー」の3本立てです。
山田錦発祥の地として知られる多可町、歴史ある町の産業データを紐解きながら、実現可能でクリエイティブな打ち手を構築します。
【兵庫県川西市】
総合計画(後期基本計画)策定支援をしている中で、市民審議会を開催しています。いわゆる形式的な会議ではなく、合計20時間以上を要する気合の入った議論が行われています。
これまで各地で培ってきた政策形成のノウハウを活かし、全分野的に政策の質を挙げられるよう尽力いたします。
【群馬県沼田市】
7月8日(土)に、群馬県沼田市にて「ぬまた起業塾」の開講式が開催されました。沼田市長を始め、地元経済団体が総力を上げて支援する本プログラムも今年で3期目となります。
青山社中はプログラムの設計から運営までお手伝いをしています。1期生、2期生からは次々に起業家が生まれ、沼田活性化のコミュニティも立ち上がりました。今年度も沼田の皆さんの起業、第二創業などのチャレンジを全力でサポートして参ります!
*一般社団法人「日本と世界をつなぐ会」(リーダー塾生が立ち上げた団体です)
8/1(火)~6(日)に成都イトーヨカドーで日本の職人文化や特産品をPRする「匠心商品展」を実施します。(参考:成都イトーヨーカドーPV https://goo.gl/c6Wwzv)
弊社で新潟県燕三条地域やOMOTENASHI Selectionなどの商品出展の支援をしております。生活雑貨、衣類、美容製品、食品などを含めて200点を越える商品のマーケティングを行い、売れ筋商品を特定しつつ、10月以降のECサイトでの販売に繋げていきます。
新潟県の越後ジャーナルにも記事が掲載されています。
http://www.palge.com/news/h29/7/20170715seito.htm
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<4> 青山社中のメディア掲載・講演等のお知らせ
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<7月の実績>
・7/8 第3期ぬまた起業塾 開講式にて塾頭講話
https://aoyamashachu.com/news/2017/4523.html
・7/12 BBT Chの講義を収録
ゲスト:NPO法人ETIC 代表理事 宮城治男氏
https://aoyamashachu.com/news/2017/4526.html
・7/19 フジサンケイビジネスアイ「高論卓説」にて記事掲載
題名:国を信じて「クニ」には不信 日本人は「子」を叱り育てる「親」であれ
https://aoyamashachu.com/news/2017/4514.html
・7/20 BBT大学大学院にて講義
・7/21 BBT Chの講義を収録
ゲスト:慶應義塾大学SFC 教授 小林 博人氏
・7/29 未来国会2017キックオフイベントにて講演
<8月の予定>
・フジサンケイビジネスアイ「高論卓説」にて記事掲載(朝比奈)