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2018年6月30日

vol.91 ビッグデータ・AI全盛の集権的理系時代に、 敢えて分権的文系ロマンの必要性を考えてみる  

vol.91 ビッグデータ・AI全盛の集権的理系時代に、 敢えて分権的文系ロマンの必要性を考えてみる  

1984年。

アップルの創業者スティーブ・ジョブズは、かつてないほどに攻撃的でセンセーショナルなCMを、全米が熱狂するスーパーボール(アメリカン・フットボールの全米プロリーグの決勝戦)で流した。曰く、「1月24日にアップルがマッキントッシュを発売することで、1984年は『1984』のようにはならない。」(On January 24th, Apple Computer will introduce Macintosh.  And you’ll see why 1984 won’t be like “1984”)

巨大な画面一杯に映し出された独裁者にひれ伏すかのように従順に整列する大衆の群れの中、一人の勇敢な女性がハンマーを手に画面近くに駆け寄り、それを力一杯に投げつける。そして、独裁者の映像は画面・システムもろとも破壊される。その後、上記の文言が流れる、というのがこのCMの主なプロットだ。

小説『1984』が予測したのは、「ビッグ・ブラザー」が、一見優しくもその実恐ろしく市民を監視し続ける社会であり、ジョブズはこのCMで、個人の武器としてのパーソナル・コンピューター(PC)が、そうした「ビッグ・ブラザー」に打ち勝てることを訴えたかった、とされる。改めて書くまでもないが、ここでは「ビッグ・ブラザー」はビジネス向けの巨大コンピューター企業(IBM)やそのコンピューターを使う政府であり、駆け寄る女性は市井の市民の象徴であり、投げつけるハンマーは革新的なPCであるマッキントッシュということになるであろう。

ジョブズは、ボブ・ディランを愛し、マリファナを吸うなどして、カウンター・カルチャーの代表としてふるまい続けた生い立ちや言動から考えて、政府等による「集権」に対して、個人の尊厳、「分権」ということの重要性を強く意識し続けたと思われる。「独裁」に対する「民主」の価値の尊重と言い換えても良いかもしれない。(注:アップルも巨大企業となり、むしろ「集権」側に回ったという批判もないわけではないが、ジョブズの死後7年が経とうとする中でも、未だに、むしろ、フェースブックのようなデータ囲い込み(悪用?)戦線と一線を画そうとしているフシもある。ジョブズが追求した精神は生き続けている。)

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しかし、読者諸賢もお気づきのように、残念ながらアップルのPCやその後の同社の革新的なデバイスであるiPhone(スマートフォン)などにより、この「集権」vs「分権」(「独裁」vs「民主」)の勝負に決着がついたわけではない。むしろ、「パーソナル」な端末、即ち、iPhoneのような機器を各人が常に携帯することで、巨大企業や政府によるデータの独占(集権・独裁)が進んできている。「ビッグ・ブラザー」どころか、「ビッグ・ファーザー」、「超巨大な父親」が生まれつつあると言って良い。

特に共産党一党支配の下、国家主席の任期すら廃した中国では、政府と密接な関係を持つ各企業の開発競争を通じて、新しいIT企業、プラットフォーマーが次々に生まれており、膨大なデータが一か所に蓄積されつつある。市民生活は格段に便利になりつつも、常に見張られているような状態だ。まだ笑い話のレベルだが、中国沿岸部の諸都市では、例えば、赤信号を無理やりに渡ろうとする個人がいると、近くの電光掲示板に、「危ないからやめましょう」という表示だけではなく、「○○さん、危ないから止めましょう」と、顔認証技術に基づいて、固有名詞までが映し出されるという。

そんな中、USニュースの世界の大学ランキングのコンピューター・サイエンス部門で、中国の清華大学がトップになった。トップ10のうち中国の大学が3つで、シンガポールが2つ。ちなみに、MITは4位でスタンフォードは6位、ハーバードは7位である(日本の東大は遥かに下の91位)。このこと一つを取ってみても、残念ながら、「分権・民主」は、「集権・独裁」の軍門に下りつつあるのかもしれない(※シンガポールは、「明るい北朝鮮」とも揶揄される事実上の一党独裁体制。)
https://www.usnews.com/education/best-global-universities/computer-science?int=994b08

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ただ、歴史を紐解けば、必ずしも技術的に優位にある国・社会がその後の世界を席巻したわけではない。大航海時代や産業革命を経て、世界で圧倒的な地位にたった欧米諸国は、それまで、航海術、天文学、造船技術、火薬その他、ほぼ何を取っても技術的に中国には勝てなかった。しかし、15世紀の段階で、鄭和による大船団ミッションをアフリカにまで派遣した中国ではなく、技術に劣る欧米諸国の方が、その後、世界に大きく打って出て、産業革命を達成した。こうした歴史を生んだ原動力は、理系的技術ではなく、文系的ロマンではなかろうか。夢を追いかける精神の強さ、分権的な社会で輝く個人の力ではないだろうか。

分権的な民主社会の下で、個人による文系的ロマンの追求を最大限に促すことこそが重要であると信じたいし、そのような考えに立脚して、今日も青山社中リーダー塾では、伝記や思想の講義をしている。例えば大学におけるコンピューター・サイエンスへの思い切った投資・傾斜などを促すのも、実は、近視眼的なランキングの追求ではなく、逆説的だがロマンや挑戦心を涵養するような教育のような気がしている。

筆頭代表・CEO
朝比奈 一郎

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<1> 参議院自民党「国家ビジョン」策定をサポート
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現在の日本は、少子高齢化(人口構造変化)、経済・産業のグローバル化・デジタル化(価値構造変化)に直面し、長年にわたり築かれた中産階級社会が瓦解する危機に瀕しています。

一方で、冷戦後の「自由で開かれた国際秩序」が終わりを迎え、かつてない安全保障上のリスクに晒される中、新たなルールで進む国際政治に対応する必要にも迫られています。

こうした内外の環境変化を踏まえ、参議院自民党政策審議会(会長: 武見敬三議員)では、我が国の中長期での新たな政策方針として、

「内政国家ビジョン」(担当: 片山さつき議員)
概要(PDF)本編(PDF)

「外交国家ビジョン」(担当: 山本一太議員)
概要(PDF)本編(PDF)

を取りまとめられました。

プロジェクトレポートでは、「活力持続型の健康長寿社会」(内政)、「多次元統合型安全保障」(外交)の構築を目指すことが提言されています。

青山社中では、政策審議会のご依頼を受け、両ビジョンの策定プロジェクトを約半年にわたりご支援して参りました。

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<2> 森原が弊社COO・役員に就任
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森原がCOO・役員に就任しました。

政策事業担当として、前述の参議院自民党の国家ビジョン策定など、政治家・政党向けの政策作成支援を中心にこれまで活動しておりましたが、今後はCOOとして、本格的に青山社中の経営にも携わります。

総務省やボストン・コンサルティング・グループでの豊富なビジネス経験も活かして、リーダー育成、地域活性化、企業の海外展開支援など含め、幅広く、日本や弊社の活性化に尽力していく予定です。

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<3>青山社中フォーラムVol.42 (株)イトーヨーカ堂 
    代表取締役社長 三枝富博 氏による講演会を開催
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イトーヨーカ堂の社員として海外店舗の立ち上げのため、中国四川省の省都である成都市に出向され、その後約20年間に渡り、同地に骨を埋める覚悟で「地域に密着したビジネス」や「社員の育成」を大切にしながら、繰り返される反日デモにも負けず、同地のトップとして店舗の拡大を進めてこられた三枝氏をお招きしてご講演を頂きました。

https://aoyamashachu.com/forum_report/2018/5658.html

「現場に足を運び、気づいて行動すること」「顧客のニーズの変化を読み、組織として常に対応し続けること」など、三枝様の体験に基づいたイトーヨーカドーの経営理念や人材育成等の講演内容は示唆に富んでおり、とても力強いメッセージであり、参加者一同、今後のアクションを起こしていく上で、非常に胸を打たれる内容でした。

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<4> 青山社中リーダー塾通信
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*青山社中リーダー塾通信
5月下旬よりリーダー塾8期が開講しております。今月は8期生で懇親会を開催し、塾生同士交流を深めました。

リーダー塾生やOBの協力もあり、今年も総合商社・コンサル・不動産・製薬・医療・行政はじめ様々な分野から、個性豊かで素敵な塾生の方々にお集まりいただくことが出来ました。

OBには、タクシーの相乗りサービス「near Me(https://nearme.jp)」をリリースした塾生、浜松で球団を創設するために社団法人(http://hamamatsubaseball.wixsite.com/shizuoka-fan-club)を立ち上げ奔走する塾生、フランスでのMBAを経てアフリカで起業する塾生などがおり、各々が自身の志をもとに、活躍し始めています。

ぜひ今後とも皆様のお力を借りながら一緒に青山社中コミュニティを広げていければ幸いです。

*NPO法人「地域から国を変える会」(リーダー塾生が立ち上げた団体です) 
【三条市】
都市部から社会人を呼び込み職業訓練を通じて、その地域でのナリワイをみつけていただく-しただ塾。第3期となる今年の前期コースのテーマは農業で、7月に開講いたします。青山社中で開催された説明会では、新たな一歩を踏み出すためのチャレンジの場として活用できるしただ塾を、相談会形式でご案内させていただきました。

【北海道北斗市・道南いさりび鉄道株式会社】   
北海道・道南いさりび鉄道における新規事業創出プロジェクトでは、現在、北海道で活動されるあらゆる分野の経営者の方にお会いし、新事業の知見をいただいています。十勝バス野村社長、自由ワイン寺田社長、その他観光施設社長など、その実践ノウハウを今後活用させていただきます。

*一般社団法人「日本と世界をつなぐ会」(リーダー塾生が立ち上げた団体です)
【新潟県妙高市】
中心市街地活性化、ハイエンドツーリズム、RMO(まちづくり会社)等について、プロジェクトへの落とし込みに向けて妙高市の関係者と協議を進めました。8月上旬に妙高市を訪問し、プロジェクトの実現に向けた調査活動を行う予定です。

【長野県軽井沢町】 
軽井沢町の歴史・文化を尊重しつつ、50年〜100年後を見据えた住民参加型のまちづくりを推進することを目的に「軽井沢22世紀風土フォーラム」という会議が昨年度から行われています。住民ヒアリング、ワークショップの開催等を通して具体的なプロジェクトの推進に向けて、今後とも支援を進めていきます。

【群馬県沼田市】 
中国・成都やベトナム・ホーチミンの新興国市場への開拓に向けて、地域一体で取り組みを進めるための協議会が発足します。同会を中心に今後のグローバル事業の推進に繋げていければと思います。

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<5> 青山社中のメディア掲載・講演等のお知らせ
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<6月の実績>
・6/19 The Japan Timesにて記事掲載 (朝比奈)
 題名:Reversing Japan’s demographic nosedive

・6/23 週刊東洋経済にインタビュー記事が掲載(朝比奈、森原)
 題名:忖度エリートのカネと出世 官僚の掟

・6/25 フジサンケイビジネスアイ「高論卓説」にて記事掲載(朝比奈)
 題名:存在感の低下、留学の壁も「文化力」は盛況、米で感じた日本の限界と可能性

・6/27 BBTチャンネル「社会変革型リーダーの構想力」を放映(朝比奈)
 ゲスト: NPO法人TABLE FOR TWO International 小暮 真久 代表理事

<7月の予定>
・フジサンケイビジネスアイ「高論卓説」にて記事掲載
・The Japan Timesにて論考掲載 
・7/25 BBTチャンネル「社会変革型リーダーの構想力」を放映
 ゲスト: 日本ファンドレイジング協会  鵜尾 雅隆 代表理事

 
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