題名:露、松代で思う真のリーダー育成 〜逆境こそチャンス、まず危機意識を〜
先月、モスクワに出張したが、ロシア通の知人たちが、総じて一瞬絶句する質問があった。それは「圧倒的存在感で国をリードするプーチン大統領の次の指導者は誰か」という問いだ。
氏のリーダーとしての資質には異論もある。実際、ロシアの政治・経済状況は現在、ウクライナ問題をめぐる制裁合戦や、シリア問題など中東をめぐる欧米との亀裂の中、頼みの綱の石油・ガス価格の低迷もあって、良い状況とはいえない。
しかし、ソ連崩壊後、転落しつつあったロシアの体制を立て直したのは、そして、1人当たりの国内総生産(GDP)が世界で約60位、国全体でも約10位のロシアが、国際社会で一定の存在感を示しているのは、氏の力によるところが大きい。
さて、冒頭の問いに戻ろう。問われた人は、大抵「うーん」とうなり、シュワロフ第一副首相や、まだ若いドヴォルコビッチ副首相などの候補を挙げる。が、プーチン後を考えること自体に、専門家さえ、まだ実感を持てない印象だ。
ただ、思い返してみると、エリツィン時代に、氏の働きと存在感を予測できた人は、世界中に皆無だったと思う。氏がここまで「成長」した大きな要因は、逆説的だが、「ロシアの没落」という厳しい現状と、そこから来る危機感だ。
先般、日本教師教育学会に招かれ、基調提言をした。会のテーマは、過疎地、すなわち学校統廃合や教員縮減が進む中で、どのような教育が可能か、というものだった。
私は、逆境は真のリーダーを生み出すチャンスだとして「7つの提案」を準備し、「地域の現実を、率直に、データなどで示す」ことを筆頭に挙げた。変革の8段階論で有名なコッター教授ではないが、危機意識(sense of urgency)は、リーダーシップ発揮の第一歩である。やる気や誇りは、地域の産品や伝統など「良いこと」を教えることだけから来るわけではない。
「子供に厳しいデータを見せるのは、情操教育上、いかがなものか」との異論もあったが、子供もばかではない。現実を等身大で見せることが、“始動力(リーダーシップ)”養成の第一歩である。
学会は長野市で行われたので、空き時間に、郊外の松代地域を初訪問した。川中島合戦などの武田・上杉の争いで有名な海津城(松代城)があり、信之以降の真田家の所領であり(真田宝物館という立派な博物館がある)、数々の武家屋敷などが残っている、桃源郷のような落ち着いた場所であった。戦争末期には、本土決戦に備えて松代大本営が地下にひそかに構築された過去もある。
松代は、硫黄島の守将として不朽の名声を残した栗林忠道中将(当時)の出身地でもあるが、時代を超えて数々の偉人が出ている。特に佐久間象山が有名だ。象山は、儒学者や兵学者としてのみならず、日本初の電信を行い、ガラス製造を行うなど、西洋の科学技術にも精通して活躍した“マルチタスク”を極めた偉人だ。